アカセニッキ(明瀬祐介日記)

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藤井一至の土をめぐる冒険。

投稿日:2018年9月16日 更新日:

■突然だが、あなたは土について知っているだろうか。

「土とは何なのか」答えられるだろうか。

あるいは、斜長石、かんらん石、輝石といった「鉱物の種類」や、
火成岩・変成岩・堆積岩、あるいは玄武岩・花崗岩といった「岩石の種類」なら、
きっとどこかで見たことがあるだろう。
しかし、「土の種類」の表を、見た記憶はあるだろうか。(*)

人間は物を食べて生きている。
その食べ物はだいたい土で育つ。
だから、ほんとうは「土」がわからなければ
農業も、経済も分からないし、
農業と経済が分からなければ、歴史も政治も、文化も文明も分からないはずである。

逆に土が分かれば世界を理解し、そして改善する一助になるはずだ。

にもかかわらず、私を含めて多くの人が
土について知っていることはあまりにも少ない。

(*)土の種類は手元の高校地理資料集には載っていた。
(「新詳地理資料COMPLETE2018」)
本書とは分類がやや違うし、分布図は間違っているらしいけど。

 

■藤井一至「土 地球最後のナゾ」(光文社新書)は、
土壌学の入門の入門からはじまり、
世界中の土を巡る旅行記となり、
終盤は農学、農業経済学へと繋がり、
さらに文明論にまで行きつく、
「土をめぐる冒険」の書だ。

土を起点にすれば、何でも語れるのである。
https://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334043681
https://www.amazon.co.jp/dp/4334043682

 

■まず、「土とは何か」という、根本的なところからはじまるのだが、
ここ、門外漢からすると、ちょっとした盲点ではないだろうか。

私は、これまで土という物を漠然と、「鉱物」だと思っていた。
よく分からんけど、石の細かいやつなんだろうな、と。

それは土の一部ではあるけれど、土の本質ではない。
土は生き物であり、生き物がなければ土ではない。
–というのが割と新鮮、なのは私だけかもしれない。

 

■第2章では、世界にある12種類の土をめぐって
京都の吉田山から、カナダへ、タイへ、アメリカへ、
と、世界中に探しに行く旅行記の形を取りながら、
12種類の土、それぞれの特徴や由来を解説。

第3章では、
世界で人口が増大し、ますます多くの食糧が必要になり、
各国企業が農地を奪い合う現状が語られ、
筆者がボルネオ島で行なった山火事被災地再生の実例を紹介。

第4章では、日本の土の現状と課題について提言がなされる。

こう書くと、なんだか難しそうな本だし、
実際、科学的・技術的な部分は私にはよく分からなかったのだが、
ところどころに、
「誰がうまいこと言えと」「そのフレーズ要らんやろ」
と言いたくなるようような小ネタがあり、
ちょっとずつ読者をつっこませてくれ、飽きさせない。

 

■本書はもともと宇宙での食糧生産を企てる、
NASAへの嫉妬から書かれたという。

かつて、

「”土に根を下ろし 風と共に生きよう
種と共に冬を越え 鳥と共に春を歌おう”

どんなに恐ろしい武器を持っても、
たくさんのかわいそうなロボットを操っても、
土から離れては生きられないのよ!」

と叫んだ少女がいた。(*2)

あの会社にかかると、かぐや姫でさえ都で見失った健康を
田舎の里山暮らしで取り戻したりするようになるから
丸っきり信じるわけにはいかないが、
やっぱり現実にも、宇宙開発や人工知能と少なくとも同レベルで、
土や農業が人類にとって重要になるのは間違いない。

私はこれまで、土壌学という学問の存在自体は知っていても、
面白そうだと思ったことはなかったし、
本などで触れたこともなかった。

私を含め、人々は農業を作り、政治経済を左右し、
文明や歴史の「土台」になってきたはずの
土についてほとんど何も知らない。

本書はおそらく、多くの人にとって最初に読む土壌学の本になるだろう。

(*2) 「天空の城ラピュタ」より

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