アカセニッキ(明瀬祐介日記)

少しだけ役に立つ、または面白い内容を提供できれば。

「失われた十年」、田中秀征と、多くの「もしも」。

投稿日:2018年10月14日 更新日:

■相撲には、”平幕優勝が多い時期”というのがある。
ちょうど平成3年から平成4年頃がそんな時期で、この時期には、
琴富士、琴錦、貴花田、水戸泉、曙(平幕ではなかった)
と、5人も初優勝力士が出ている。

時代から時代の変わり目の、
ある種不安定な時期に特有の現象なのだろう。

■その時期を含む、平成年間の一桁くらい、
宇野政権から村山政権くらいまでの日本政治も
ちょうどそんな感じだった。

この時期に首相を務めた人たちは
“首領”とか”剛腕”とか言われるタイプではない。

もとより日本政治に長期政権は少ないのだが、
できたときから”長期政権”を期待されていない。

その業績への評価はいろいろあろうが、
こういう、失礼ながら本来は主役ではないタイプが
主役不在のために押し出される形で活躍する時期というのは、
傍目からは面白く見える。

■田中秀征(たなか・しゅうせい)。

宮澤政権から橋本政権まで、
間の細川、羽田、村山政権に至るまで、
ずっと首相の側近で居続けた、
おそらく唯一の人物。

「平成史への証言」は、
そんな、最近はもっぱらTVコメンテーターのようになった
田中へのインタヴューである。
https://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=20286

■色々知らなかったことが出てくる。

特に、平成5年の衆院選(7月18日)直後、
まだ政権が固まらない時期の各党の駆け引き。

7月22日に武村正義が小沢一郎に
「1週間待ってくれ」
と猶予を求めたことや、
7月31日に田中と河野洋平との間で、
自民党政権入りに関する打ち合わせがあったこと。

また、細川政権下誕生後の宮澤・細川の引き継ぎ会談で、
田中が、仕出し弁当の保冷車に乗って、
誰も気づかれずに会場入りしたこと。
(別にカモフラ―ジュではなく、車がそれしかなかったらしい)

その後も細川と宮澤は多く会談を持ち、
宮澤が死去した際の細川の
「落ち込みよう、悲しみようは尋常ではなかった」こと。

細川政権下で消沈する野党自民党員の中で、
小泉純一郎だけは田中の部屋に頻繁に訪れ、
「なるべく長く細川政権を続けてほしい」と
元気に言っていたこと。

■平成の日本政治は、ずっと旗印にし続けた、
“改革”の待望論はこの頃に始まっている。

“新党さきがけ”(と、新生党、日本新党)が、
その後続く”非自民”の系譜の
文字通りのさきがけとなった。

田中は、際立って有能な実務家だった。
また、遠大な理想の持ち主でもあり、
本書でも分かりやすく語られている。
しかしながら、多分に限界もあり、
“新党さきがけ”の構想の一部は実現したが、
多くはそのまま実現はされなかった。

本書でも、
「もしあの時ああなっていたら」
というような後悔が、田中の口からたくさん出てきているのが印象的だ。

■当時は大変動期のように感じていた平成初頭期も、
今日の眼にはずいぶんのんびりと映り、
現在、政治はまったく別のフェーズに移行したかのように見える。

しかし、そんな今もなお、
田中と”新党さきがけ”の”改革”構想は
一定の説得力を持ち続けている。
現在でも、”新党さきがけ”の抱いた日本像と、
似たような理想像を持つ者もあろう。

今に影響を残す”平成初頭の日本の政治”を、
田中秀征という男を通して振り返り、
彼らが構想した”まぼろしの日本政治”が実現していたら
その後の日本はどうなっていたのか、
などと考えてみるのも悪くあるまい。

-

執筆者:

関連記事

デービッド・アトキンソン著「日本人の勝算」を読むが…。

■私は経済学では「新古典派」に属する。別に学位も持っていない私が「新古典派」を名乗るのは、党員でもない自民党支持者が「俺は麻生派だ」「僕は石破派だよ」とか言うようなもので滑稽なのだが、まあ新古典派だ。 …

「新装版 真鍋博の鳥の眼 タイムトリップ60’s」。

■「新装版 真鍋博の鳥の眼 タイムトリップ60’s」 の内容と感想を書く。 http://mainichibooks.com/books/hobby/-60s.html 著者・真鍋博は、 …

竹中平蔵「平成の教訓」への疑問。

■竹中平蔵「平成の教訓」を読んだので、 https://www.php.co.jp/books/detail.php?isbn=978-4-569-84204-2 以下に内容と感想を書く。 (以下、人 …

一九六八年、現在の若者たちはどこにいたのか。

■「1968」(小熊英二)という、昭和四十三年前後に起こった大学紛争に関する本がある。https://www.shin-yo-sha.co.jp/mokuroku/books/978-4-7885-1 …

藤井一至の土をめぐる冒険。

■突然だが、あなたは土について知っているだろうか。 「土とは何なのか」答えられるだろうか。 あるいは、斜長石、かんらん石、輝石といった「鉱物の種類」や、 火成岩・変成岩・堆積岩、あるいは玄武岩・花崗岩 …