アカセニッキ(明瀬祐介日記)

少しだけ役に立つ、または面白い内容を提供できれば。

所感

恫喝を浴びたい人や搾取されたい人もいるだろうに。

投稿日:2018年10月30日 更新日:

■ある時から、
「人の喜ぶ姿が見たい」と低賃金重労働に励んでいた人が、
“やりがい搾取”の被害者とされるようになった。
朝や土日にも練習があり、監督から厳しく叱責される部活動が
“ブラック部活”として糾弾されるようになった。
かつての徒弟のように、新人に定時後に無給で修業をさせていた菓子屋とか、
休みなしでベタ塗とトーン貼りを”させられる”漫画やアニメイション関係の仕事も、
弾劾されるようになった。

 

■こういった問題指摘には、確かに尤もな部分もある。

まず、通常の会社組織、法人、役所などについては、
労働法令などを遵守すべきだという点に、議論の余地はない。
(特に、明らかに利潤が出ているであろう機関は
その利益をできるだけ還元すべきだろう)

そもそも、多くの従業員は
別に会社や仕事が好きで所属しているわけではなく、
生活のために働いている。
給与と労働環境が悪いからといって即座に離職し、
すぐにまた別のところに入る、
ということはできない場合だってある。
だから、それ相応の給与や労働環境を整えるべきだ、
という議論には全面的に同意する。

また、政策や制度、あるいは業界構造に問題がある場合、
その政策や制度や構造をなんとかして、
仕事量と必要性に見合った給与が与えられるようになければならない、
“やりがい搾取”などを根絶しなくてはならない、というのも分かる。
(例えば、”やりがい搾取”の例に挙げられる、介護職が、一般には
「人手が足りないのに給与が安い」問題など)

 

■しかし、それ以外の、“好きで入っている組織”、
例えば部活や、徒弟制度や修業生活と言ったもの。
あるいは、夢追い人的な生き方の一時的な受け皿になっている機関…
と言ったもの。
これらについて、
世間が
“やりがい搾取だ”・
“パワハラだ”・”昭和だ”・”ブラックだ”
などと弾劾し、こういった物を世の中から一掃しようとする動きには、
私は全く同意できない。

なぜならば、こういった前近代的な組織にいて、
肉体的・精神的に苦しい思いをすることに、
喜びを感じている、感じたことがある人、救われる人が、
世の中には確実にいる
からである。

 

■先だって、私は部活について、以下のように書いた-。
http://acsusk.com/20180901-4/

「部活に入り、半ば強制的に鍛えてもらいかった。
強制的に戦わせてほしかった。
強制的に上位を目指させてほしかった。
ついでに言えば先輩に服従したりしたかった」

-私自身は中学・高校を通して部活をやっていないし、
徒弟制度や修業生活のようなこともしていないのだが、
周囲の知人から、
「部活(修業)では理不尽なことも苦しいこともあったけど、
今思えばそれが一番の思い出だ」
というようなことを聞いたことはないだろうか。

私自身、他人からちょくちょくそういった言葉を聞くことがあるし、
その、若者が集団生活を送ったり、苦行的な鍛錬などをすることでできる
強固な仲間意識とか、他にはない充実感、
悪く言えば抜け出せなくなってしまうような中毒性は
少しは理解できるつもりだ。

 

■もちろんこういった心情には、
「被害者が明らかな加害者と長い時間共同生活を送ることによって、
加害者に同情したり、共感したりしてしまう」
という、”ストックホルム症候群”とかに近い現象だってあるだろう。

しかし、所属員の多くが、
肉体的・精神的に過酷なことを行うことで、
喜びを感じたりしている機関について、
「あなたは騙されているのよ」

「君は洗脳されているんだ」
「パワハラだ」
「”ブラック”だ」
「日本的な上下関係の問題点が…」
などと言って、全く無関係な外部の人間が糾弾し、
そこにある部活動や徒弟制度や修業制度なんかを
「改善しよう」あるいは「根絶しよう」
などという傲慢さには、
はっきり言って反吐が出る。

 

■むろん、”組織の中”だからといって、
全く外のルールを無視してよいと言っているわけではない。

死亡事故や、後遺症が残るような傷害、
あるいは精神的な疾患などは、
事前に防止されるべきだし、
発生した場合は厳しく罰せられるべきだろう。
(一度これらの事態が起こったら、
被害者は元に戻らないから、慎重に慎重を重ねるべきなのは当然だ)

しかし、それにとどまらず、
近年のウェブやマスメディアは、
何か問題が一つあるたびに、こういった
“前近代性”、”理不尽さ”、”パワハラ”、”日本の縦型組織”
そのものをすべて滅ぼそうとしているように見える。

それでいいのか、
それでみんな幸せになるのか?

 

■なんか話が大きくなりすぎてしまったけれど、
そういうことが言いたかったんじゃない。
対象があいまいで、散漫になってしまったけれど、
私はもっと小さい、日常的なことが言いたかったのだ。

「いや、その、
“体育会的組織”とか、”徒弟制度”とか、”日本型縦型社会”にも
いい点はたくさんあるのではないか。
現に多くの人がそこで育ち、そこを愛している人がいるんじゃないか。
それを正義の顔をして問答無用で取り上げようということが
果たして本当によいのか?

罵倒とか恫喝とか、”やりがい搾取”とか、
受ける当人たちが納得しているものに関しては、
よほどひどいもの以外は残してよいのではないか。
少なくとも、外部が改善を強要するというのは、
もうすこし慎重であるべきではないのか。

明瀬祐介
acsusk@gmail.com

 

(補論1)
上記議論では、あえて触れなかったことだが、
こういった、会社以外の
“搾取”とか”パワハラ”とか”ブラック”とかの”犠牲になる”のは
若者であり、未成年者が多い、という問題はある。
だから、決定的な”被害”が出ないように
より一層注意すべきだ、というのは分かる。
しかしだからといって、逆に即座に
「冷静な判断ができない未成年者を搾取し、恫喝するような組織はただち根絶し、
中の若者を”まともな”ところに帰すべきだ」
ともならないはずだ。

 

(補論2)
ちょっと話は変わるけれど、
“当たればデカい”クリエイター的な職業の、
一時的な修業の場となるような機関、
たとえばアイドルの卵の養成所とかについて。
そこで夢を追う人の生活が苦しかったり、
場合によっては無償だったりというのに問題がある、
というのは分かる。
が、それをすべて根絶しようとすると、
今の経済のもとでは、そういった機関がなくなり、
夢を目指せなくなってしまう、
というディレンマだってあるだろうし、
簡単な問題ではない。

 

(補論3)
自由意志というのは難しい問題で、例えば、
「若者を半ばだまして山の中の宿舎に連れてきて、
一ヶ月間昼夜とも寝かさず、電話も取り上げ、
夜な夜な変な音楽とか映像とかを視聴させられ、
最後にリーダーから
“君たちはよくがんばった”
とか言われ、みんなから祝福され、帰される」
というような組織については、
いかにそのあと、連れ戻そうとする家族に対して、当人たちが
「俺はこの組織にいたい。
誰にも迷惑をかけていない。
何が問題なんだ」
と本心から言っても、
「いや、まて、やっぱり問題なんじゃない?」
と、なるのはまあ分かる。

そういうことまでつきつめて考えると、
「この世に自由意志なんてものはない」
という結論にもなってしまうけれど、
この境界線は程度問題らしく、一応その境界を定義することもできよう。
https://note.mu/daily_cult/n/nad21561cfe0a
http://www.cnet-sc.ne.jp/jdcc/GHI/index.html

少なくとも、
TVもウェブも電話もあって、外部との連絡ができ、
慰留されても最終的にその組織を離れることができ、
重犯罪も犯していないのであれば、
現状で、ほとんどの徒弟制度や修行制度や部活動については、
当人たちが納得している場合は、
外部からとやかく言われる筋合いはないのでは?

 

(補論4)
さて、そこで愚行権の出番である。
「他人に迷惑をかけないのであれば、
あなたには自分を苦しめる権利がある」
とする愚行権は、一般的には自由主義・価値相対主義の極致、
リバタリアニズム的、ヒッピー的な主張のように思われがちだ。
http://acsusk.com/20180901-2/

“自由”と対極にある、体育会や徒弟制度とは縁遠いように見える。

しかし、こうは考えられないだろうか。
「我々には部活や体育会、修業制度や徒弟制度で苦しむ権利だってあるのだ。
罵倒や恫喝を浴び、
搾取される権利だってあるのだ。
他人に迷惑をかけない限り、それを誰からも止められる筋合いはない。
我々には”愚行権”があるのだから
。」

(*しかし、いわゆる”自己責任論”とは似て非なるものであることに注意)

 

(補論5)
ちなみに、俺はこういったちょっと怖い組織には絶対入りたくない。
しかし、それとこれとは全く別で、
俺が入りたくなくても、世の中には
こういう組織で虐げられたりすることも好きな、奇特な人もいることは、俺にも分かる。

(令和元年八月追記)
上の文章は我ながら
分かりづらく、
具体例に触れて
もう少し分かりやすくしたやつがあるので、
もしよければそちらもご一読いただきたい。

-所感

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