アカセニッキ(明瀬祐介日記)

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いつか「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」を思い出してきっと泣いてしまう。

投稿日:2018年11月9日 更新日:

■TVドラマ
「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」
のDVDを視たので、
その内容と感想を書く。

脚本は坂元裕二。
平成28年にフジテレビジョン系列”月9″で放映された。

 

■幼い頃に親を亡くし、
北海道で里親(柄本明)のもとで育てられてきた杉原音(有村架純)。
貧しい里親は玉の輿を狙い、音と金持ちとの結婚を決める。
ある日、落とし物を届けに来た
東京の引っ越し屋・曽田錬(高良健吾)と出会った音は、
今の生活から逃げ出し、東京へと来るのだった。

二部構成になっており、
前半の第一部では2010年頃の、音、錬と、
彼らを取り巻く若者たちの苦しみが、
そして後半の第二部では、2016年前後の彼らの成長が描かれる。

 

■第一部では、ひたすら現代日本の”現実”が描かれる。

外車ほどのドレスを買うような富裕層のいる街に、
貧苦にあえぐ家族がいる。
東京に出た音は介護の仕事に就くが、
働きづめでほとんど家に帰って寝られない日が続く。
錬の恋人・木穂子(高畑充希)は広告代理店に勤め、
一見華やかな生活をしているが、
彼女にも、人に隠している一面がある。
錬の幼馴染・小夏(森川葵)は東京の恰好に憧れ、
デートクラブでお金を稼ぐようになり、
“モデル”にスカウトされ、怪しい事務所に誘われる。

誰もが息苦しく暮らし、
いつしか他者に敵意を持ってしまうような、冬の東京。

この、第一部のテーマははっきりと”貧困”・”格差”、そして”過労”であり、
そして”東京”とか”現代”の苦しみだ。
大げさに言えば新自由主義批判であり、資本主義批判でもある。

これでもか描写される”現実”を視ていて苦しくなる。
それでも、毎回、ほんの少し救いがあるエンディングにたどり着くと、
手嶌葵のテーマソングが流れ、安堵する。

そして、
「この社会をどうにかよくすることはできないのか」、
なんて考えたりしたのだった。

 

■ところが、第二部で、
こういった社会への問題提起は
かなり薄くなってしまう。

これにはいろいろ物語外の要因もあったのだろう。
作り手が作りたかったのが、社会派ドラマではなく、
恋愛ドラマだったのかもしれない。
そして、普通の恋愛ドラマとして、決して悪いわけではなく、
むしろ佳品となっている。

しかし、第一部が、現実への強い問題意識をもち、
ドラマとしても異様な迫力をもっていただけに、
第二部、普通の恋愛ドラマになってしまったのは、
やや残念に感じないでもない。

初回、家賃も払えず、幼子と住むアパートを追い出されようとする母子が出てくる。
その母子は物語上も二度と描かれず、救われる描写もなかった。
そして現実にも、そういう人たちは救われていないのだ。

 

■このドラマは、当たらなかった。
これだけ素晴らしいメムバーをそろえながら、
視聴率は月9史上最低だったという。

月曜、仕事から帰ってきたあとで、
貧困とか、搾取とか、重労働とか、
みんな視たくなかったからかもしれない。

 

■役者陣、特に、主人公若者6人を演じた、
有村、高良、高畑、森川、西島隆弘、坂口健太郎、
の6人はどれも魅力的だったけれど、
しいてMVPを選ぶとすれば、小夏を演じた森川葵だろう。

当初、田舎から来た、ちょっと頭が弱いなりに
素朴な女の子だった小夏は、
第一部で東京の罠に嵌り、利用され、騙され、
周りの人を傷つけ、
第二部では夢破れ、心を完全に病む。

第5回で主要6人がはじめて顔を合わせるときの森川など、
ほんとうに狂気じみている。
そしてその横で一筋だけ涙を流す高畑。

若い役者が真剣に演技をするとき、
時として役が取り憑いてしまうような現象があるというが、
このときの森川にはそれが起こっていたのではないだろうか。

そう感じさせる一場面である。

…いや、プロだから取り憑かれるなんてことは全然なくて、
撮影終わったら
「ふー、終わった終わったあ、さあゲームやろ」
とか言ってるのかもしれんけど。

 

(■以下、細かい点。

・タイトルが覚えづらい!
つい”私は”とか、”かもしれない”とか、”だろう”とか付け加えてしまう

・DVDに予告篇がないのは残念

・なんか車だけで北海道と行ったり来たりしたような
感じになっている

・いつもながら柄本明の狂気感は異常

・会津、神戸、福岡など、多くの方言が出てくる。
地方出身の若者が東京の生活で疲弊する姿を描いたドラマなのだ。
そんでもってこれがまたうまいんだ

・八千草薫演じるお婆さんはアメリカンフットボール好きらしく、
部屋にポスターがたくさん貼ってあったりするのだが、
それについての説明はなかった

・っていうか八千草薫、家を乗っ取られてるよ!

・錬と音のファーストキッスの場面。
トラックのワイパーが動くところ、
計算された演出なのだろうが、
「もしかしたらNGだったのかもしれない」
とさえ思わせるような、
“絵になりすぎていない”感じがすばらしい

・このドラマに関しては、
「介護の仕事が必要以上に過酷な物として描かれている」
という、介護福祉士協会からの抗議があり、
後半、過労の描写が抑えられたのはそのせいもあったかもしれない。
介護福祉士協会が
「悪い部分を描きイメージがさらに悪くなってしまう」
ということを危惧する気持ちは分からないではない。
しかし、実際の介護業界には重労働・低賃金の職場が少なくなく、
そこには政策的な問題もあるのだから、むしろ
「もっとひどい部分を描いてくれ。
介護の問題を知らしめてくれ。
そして少しでも改善につなげてくれ」
と言うべきではなかったか

・とはいえ、搾取企業の経営者(小日向文世)や中間管理職(浦井健治)が
悪人のような描き方はやっぱりちょっとよくないかもしれない。

・錬が会津に帰った日に、タクシー運転手から”坂上二郎の死”が語られ、
それが東北地方太平洋沖地震の直前であることが分かる。
そこまで思わせぶりに描写しておきながら、
震災は直接描かれなかった。
震災ドラマにしたくなかったのかもしれないが、
“この若者たちの東北地方太平洋沖地震”が、
視たかったと私は思う

・第一部で恋敵だった音と木穂子が
5年経ってすっかり打ち解け、やがて仲良しになるくだり。
いかにもありそうだし、実際にこういうことはある。
私はこの第二部の二人の関係がすごく好きだ

・俺が一回しか見てないからかもしれないが、
晴太と錬の関係がよく分からん

・最終回近くに永野芽郁と芳根京子が出ている。
(後の)朝ドラ主役の競演は珍しくないが、
同じ放送回に4人も揃うのはわりとレアか

・高橋一生が演じる錬の先輩は、
“貧困”を描いていた第一部で、
我々から憎悪と哀しみを誘う、印象的な役柄となっていた。
彼が息子と会う場面もエピローグで描いてほしかったのだが…)

明瀬祐介
acsusk@gmail.com

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