アカセニッキ(明瀬祐介日記)

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「昼顔」。井上由美子と演出陣の深謀遠慮。

投稿日:2019年2月9日 更新日:

■連続TVドラマ
「昼顔 ~平日午後3時の恋人たち~」
のDVDを視たので、その内容と感想を書く。

本作は平成26年フジテレビジョン系列で放映された。
脚本は井上由美子。
https://www.fujitv.co.jp/b_hp/hirugao/index.html

■スーパーマーケットで
パートタイマーとして働く主婦・紗和(上戸彩)。

夫との間は子供はおらず、
平凡でやや退屈な日々を過ごしていたのだが、
あるとき、ふとしたきっかけから、
利佳子(吉瀬美智子)、北野(斎藤工)と出会う。

利佳子は夫と娘2人、裕福な生活を送り、
家事も完璧にこなしながら、出会い系サイトで
男と知り合っては情事を愉しむ、
「昼顔妻」だった。

そして北野は、高校の生物教師を務める、
昆虫オタクの堅物な男。

北野と紗和は、お互い配偶者がいながら
恋愛関係に落ちていくのだった-。

■このドラマは面白い。

ふつう、物語の面白さというのは説明できず、
「面白い物語だから面白い」
としか言いようがないものである。

このドラマも、半分はそうで、
「お話が面白い」
としか言いようがない面白さが半分だ。

しかし、それに加えて井上由美子が
「物語の面白さ」以上の面白さを出すため、
あらゆるテクニックを駆使している、
という感じが凄く、
物語の面白さをさらに引き立てている。

■例えば第一話の最後。

利佳子は画家の加藤(北村一輝)と知り合い、
「自分の絵を描いてくれ」
と頼む。
(この加藤が、このドラマでの利佳子の相手となる)
描き終えた絵を渡され、一瞬で笑顔になるほど歓ぶ利佳子。
絵は映らない。

-ここで視聴者は予想する。
「ああ、すごくかわいらしく、
美しく描いてもらったんだな」と-。
(私が画家でもそうするだろう)。

絵が映らないまま別の場面が続き、
そしてラストシーン。
利佳子はまだ絵を眺めて歓んでいて、
ようやく、絵が画面に映る。

それは、子供のらくがきのような抽象画、
それも美しいとはとても思えない、雑な絵だった-。

(後に分かることだが、
加藤のそんなところにこそ、利佳子は惹かれたのだ)

それを見せるまでの、この「溜め」こそ、
井上の計算されたテクニックだろう。

■あるいは第二話最後近く。

加藤のアトリエに押しかけ、
自分の絵をまた描いてくれ、と頼む利佳子。

加藤はぶっきらぼうに言う。
「じゃあ服を脱いで」-。

「ムリムリムリムリ!」
叫び声が聞こえる。
その声の主は全く別の場所、別の場面にいた紗和だった-。

この
「場面Aで言われそうなセリフを、
全く別のシチュエーションの場面Bの人が言う」
というのは定石だ。

しかしここまでぴったりうまくはまるのは
なかなか見られないですよ。

■あるいは、北野の高校の生物教師という設定もうまい。

この設定だけで、

・北野が、生物学の研究者として成功している妻に劣等感をもっており、
それが遠因で不倫に走る-
-という、かなり説得力のある理由付けができる

・一方、紗和はかつて高校時代に教師を好きになったことがあり、
それがトラウマにもなっていて、
おそらく無意識で、また教師に恋をする-、
という、これまたありそうな理由付けができる

・北野が紗和に、昆虫の生殖について語る場面を出せ、
それが物語の暗喩となる

・北野の教え子についての物語が展開できる

と、一石何鳥にもなる便利設定なのだが、
その設定を決め、それを設定を余すところなく存分に活かすのが、
名人の名人たるゆえんである。

■また、脚本に加えて演出面もまた非常に凝っている。

うまく説明できないのだが、明らかに
「恰好良い映像を作ってやる」
という野心がひしひしと伝わってきて、
その野心がまたうまくいっている。

エンディングテーマ曲は一青窈による、
金井克子「他人の関係」
(「パッパッパパッパ」という、パールライスの曲)の
カヴァなのだが、
この映像がかっこいいんだまた。

役名と役者名が表示されるところ、
速すぎて見えないけど。

「面白さ」というのは
直感やセンスではなく、
計算や推敲によって作られる-。

そう思い出させるドラマである。

平成三一年二月八日
明瀬祐介
acsusk@gmail.com

(以下、細かい点)

■MVPは紗和の姑役の高畑淳子。
夫役の鈴木浩介、
利佳子の夫役の木下ほうかとともに、
それぞれ妻が不倫に走りたくなるような
嫌らしさがすばらしい。
(実は皆いい点や同情する点もあるのだが)

■画家の加藤はこのドラマの恰好良さ担当で、
最初から最後まで一貫して恰好良い。
アトリエを持っているのだが、
貧乏画家と言いながらアトリエを維持できるほどには
金があったのか、そのあたりはよく不明である。

■利佳子は(ドラマでしかありえない)
切り返しのうまさで、
彼女と紗和の掛け合いが
ドラマ序盤の見どころとなっている。

■上戸彩は楽しい時には本当に楽しそうで、
視ている方も楽しくなる。
最初の場面でアイスクリームを舐めながら
遠くの火事を見つめる場面が実にしぶい

-TV

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