アカセニッキ(明瀬祐介日記)

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所感

竹中平蔵「平成の教訓」への疑問。

投稿日:2019年2月25日 更新日:

■竹中平蔵「平成の教訓」を読んだので、
https://www.php.co.jp/books/detail.php?isbn=978-4-569-84204-2
以下に内容と感想を書く。
(以下、人物の敬称を略する)

 

■本書には、著者の、経済政策の当事者としての回顧と、
一経済学者から見た平成の通史、
そして今後の展望が書かれている。
平成史は経済分野が中心だが、それにとどまらず、
日本社会全体への批評となっている。

この「平成日本の回顧、今後の展望」については、
私もおおむね(ほぼすべて)同意するところで、
「平成日本経済」が、非常に分かりやすく総括された、
一級の書と言えよう。

(もちろん見解は分かれて当然だが、
すくなくとも日本の「新自由主義派」を代表するに
ふさわしい出来になっている)

(* ただし、マクロ経済政策の是非について
私は全く分からないので、
はっきりとしたことは言えないのだが)

 

■しかし、著者と言えば、何といっても
約五年間、小泉純一郎政権下で経済財政担当大臣を
務めたことであろう。

これは、
「郵政民営化を実現した」
と高く評価されることがあるし、
「社会の格差を広げた」
と批判されることもあるが、
やはりそれらについての筆者の見解こそ、
ぜひ聞きたいところだ。

 

■まず、格差について、
「”小泉政権下で格差が拡大した”
という言説は誤りである」
ということが、デイタをもって示されている
(拡大はしているが、
その前後の時代と比べて幅はむしろ小さい)

これは、デイタを見ると確かにその通りだ。

さて、ここで誰もが気になるのは理由である。
「小泉政権下で格差はそれほど拡大しなかった。
なぜならば我々が~~のような対策を行なったためだ」
と、当然来るところであろう。

だが、本書には、
「どのような政策を行なったので、
格差の著しい拡大は抑えた」
という部分がないため、ここが全くわからない

これでは批判的な人から、例えば、
「一時的に経済状況が好転したので、
低所得者層も短期的な収入にありつけて、
結果がよかっただけだ。
決して後に繋がるものではなかった」

などと言われかねまい

ぜひ、
「前後の時代よりましだ。
デイタが示している」
だけではなく、
「~~政策が効いたため」
というを示してほしい。

 

■次に、郵政民営化について。
これを著者は、
「小泉内閣五年間の最大の遺産」
としている。

だが、その郵政民営化の意義が本書では分かりづらい。
もちろん
「アメリカの要求に応じたわけではない」
「郵政民営化前の特定郵便局は世襲制だった」
「各特定郵便局に対し、多額の使途不明金が支払われていた」
という趣旨のことは書いてあるのだが、
(*これらは私もその通りだと思う)
では、
「どんな目的があった」
「だから、小泉政権の五年間の最大の政治課題とすべきであった」
「結果として、民営化後の約一〇年間でこのように良くなっている」
という、説得的な内容にはなっていないように思う。

(もちろん
「郵便事業・郵貯事業を効率化する」
「それまで財政投融資に使われていた郵貯資金を民間へ流す」
という大義名分があったことは、
本書以外の書物などで分かる。
しかし本書にはそういった、
基本的な「公式の見解」すら書かれていない。
PHP新書で一般向けに書かれた本なのだから、
せめてそれだけでもあった方が親切では?)

当時の日本に、
改革すべき事項、実行すべき政治課題は
いろいろあったと思うのだが、
「他のほぼすべての課題よりも郵政民営化を優先し、
多大なエネルギーを注ぎ込んだのは正しかった」
というのが、残念ながら本書では分からないのだ。

 

■例えば、
平成一〇年代の日本がもっと強くコミットすべきだったのではないか、
とされる事項のひとつに、少子化問題がある。

著者も、本書に、
「平成年間で子供が失われた(それは大きな問題だ)」
という趣旨のことを書いた。

であれば、少子化対策の最高のタイミングは
昭和四十年代後半生まれ前後の
「第二次ベビイブーム世代」(団塊ジュニア)が
三十歳代半ばに差し掛かった、
平成一〇年代前半であったろう。

他にも経済政策に近いものでは、
道州制実施、首都機能移転、過疎地からの移住促進、
農地制度改革、土地制度改革、年金制度改革…
などの候補があった(*)。
(それぞれいいかどうかは別として)

郵政民営化は、他の数ある政策候補よりも
優先度が高いものだった、
というのが分からない。

(*上記の中にはいくつか小泉政権下で実行されたものもあるが、
「これで制度ができたので、
しばらくの間はマイナーチェインヂをしていけばよい」
というような大事業だったとは、
著者も含めて誰も思っていないだろう)

 

■冒頭に書いた通り、
本書は、著者が当事者であった部分以外については、
掛け値なしに完成度の高い、
平成日本の総括となっている。

であればこそ、臥竜点睛を欠くことにならないよう、
当事者としての部分について、
より詳しい説明がほしかった。

以下に、本書の中から、終わりの部分、
私が好きな一節を引用して終えたい。
(一部の改行や記号等は変えた)

「”やってみなはれ”
“それもええやんか。やってみなはれ”
これからの30年は、
そんな言葉を交わしながら、
失敗を恐れず、あくなき挑戦を続ける日々になる。
誰かにやらされるのでなければ、挑戦は面白い。
何をやってもよく、
失敗してもやり直せばよいのだから、楽しい。
私たちは、そんな明るくおもしろい時代をつくり、
次の世代にバトンタッチしていかなければならない。
日本人にはその力が充分ある、と私は信じている。」

平成三一年二月
明瀬祐介
acsusk@gmail.com
(上記についての間違いのご指摘やご批判は、
ぜひ遠慮なくご指導いただきたい)

 

(以下、補足)

■(これはかなり基本的なことなのかもしれないのだが)
著者は東北地方太平洋沖地震後に増税を行ったことや、
民間への自粛ムードを、
「経済学的にはむしろ逆で、
東北のためにお金を使うべきだった」
と批判している。

だが、震災は、経済学的には戦争と同じ、
供給不足にあたる。
まさに、「電力不足」という、
総力戦さなかのような供給不足状態があった。

であれば需要低下自体にマクロ経済的な問題はそれほどないのでは?
(もちろん無理に落ち込ませる必要はなく、
私も自粛ムードには、「経済学」以前の問題として、
非常に嫌悪感があったのだが)

 

■ところで時代劇フアンとしては
「竹中平蔵」って名前うらやましすぎる。

-所感,

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