アカセニッキ(明瀬祐介日記)

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映画

「スーパーの女」は、ティームマネイヂメントの最高の教材だ。

投稿日:2019年3月2日 更新日:

■映画「スーパーの女」を
はじめて観たので(DVD)、
以下にその内容の一部と感想を書く。

本作は伊丹十三の監督・脚本で
平成八年に公開された。
http://itami-kinenkan.jp/about/movie09.html

 

■五郎(津川雅彦)の経営する
スーパーマーケット「正直屋」は、
近隣の「安売り大魔王」(社長役は伊東四朗)に押され、
客足が伸びず身売りの危機に。
食品の偽装表示がなされ、
職人気質のバックヤード、精肉部門ゃ鮮魚部門の見栄のため、
コスト度外視の仕入や投資が
行なわれている。

そこに、五郎の旧友・花子(宮本信子)は現れる。
「安売り大魔王」のインチキと
「正直屋」のダメぶりを一瞬で看破する花子。
五郎は頼みこむ。
「うちの店に来てくれ」-。

 

■本作は企業改革の恰好の教材だ。

https://news.yahoo.co.jp/byline/endotsukasa/20161114-00064406/
http://web.sfc.keio.ac.jp/~tama/npm-workshop.html
http://www.kawanisi.jp/super/00.htm
上記のようにすでに詳しく書いている人がいるので
重複になるのだが、この映画で示される、
ティームマネイヂメントの手本の数々を、
以下に改めて列挙していきたい。

 

■日々の行動の実践から
改革活動を始めていく花子だが、
やがて目標を持つ。

日本で一番お客さんのこと
考えたスーパーにしよう

そして、最初はそれを聞くだけだった五郎も、
やがて全従業員の前でそれを宣言し、
改革が進められていく。

ヴィジョンの創出。
歴史上の偉人からIT企業まで、
成功者が必ずしたがってきた黄金律を、
やはり花子も(意識せず)踏襲している。

 

■花子が見た、
それまでの正直屋の品質水準は
あまりにひどいものだった。
古くなった魚はリパックして、
新しい日付シールをつけて売り、
古くなった肉はひき肉か惣菜にして売っていた。

もっともこれは安売り大魔王も、
もっとえげつない形で行なっており、
この風習をやめさせようとする花子に、
古株店長は、
「これも商売の知恵だ」
と反対する。

「リパックは会社の方針だ。
それに立てつく者は手を挙げろ」
と脅されて、一瞬ひるむパートタイマーたち。

が、そこで一人のパートタイマーが
恐る恐る挙手する。
「私もリパックはやりたくありません。
あんなこと子供に聞かれても答えられません

その一言が皮切りとなり、
リパックは廃止され、
ひき肉にも惣菜にも新しい肉を使うことにする。

この映画で花子は、
誇りが持てる仕事をする
という、モティヴェイターの役割を果たし続けた。

 

■顧客志向を打ち出した子は、
スーパーに主婦たちを集めて
試食会を開く。

その会で、ある主婦が指摘する。
「タラコのおむすびがまずい。
なにか別のものが
混ざってるんじゃない?」

おにぎり工場に直談判に行く花子。
業者は混ぜ物を認めるが、
「こんなことはどこでもやっている」
との開き直られたとき、花子は訴える。
正直屋に売ってるんじゃなくて、
お客さんに売ってるんだと思ってください。」

そして、再度の主婦モニタリングの会には、
そのおむすび業者も呼ぶ。
そこで新しい、混ぜ物のないおむすびを食べて
「おいしい!」
と口々に喜ぶ主婦たち。
それを見て、業者は涙を流す。
はじめてお客さんにおいしいと
言ってもらえた

花子はおむすび業者にこう投げかけたのだ。
顧客とは誰か」。

花子はドラッカーの名前も
知らなかったかもしれない。
しかし、マネイヂメントは、
やっぱり同じ結論に達する。

 

■さすがに平成八年の映画なので
古い部分もある。

経済全体が厳しくなった結果、
いまでは、改革前の正直屋にあったような
コスト度外視の見栄のための仕入や備品は
姿を消してしまった。

また、悪どい偽装表示・不当表示は、
平成一三年の雪印牛肉偽装事件や
平成一九年の赤福餅・船場吉兆の事件で
法も社会も(食品に関しては特に)厳しくなり、
今では使えないだろう。

一方で、(コストダウンにのみ目が向いた、)
「改善」が進み過ぎた結果、
「これ以上のコストダウンには
不正(無賃残業、偽装表示などなど…)しかない」
というところまで行ってしまう、
改革前の正直屋や、安売り大魔王のような企業は
むしろ増えたように思う。

花子が進めた顧客志向だって
行き過ぎてモンスタークレイマーのような話も出てきたし、
そうでなくても、顧客対応のために長時間労働になったり、
あるいは顧客のことを考えすぎて
かえって良い製品が出なくなるような現象も
問題視されるようになった。

さらには、例えば「誇り」を持つことも、
「”やりがい”なんぞよりも給与と休日を!」
と、言われるようになっている。

(*この指摘は正しく、
給与と休日が最低限保証されるべきなのは当然だが、
だからと言って「誇り」が
無意味なわけではないはずだ)

 

■と、現在とは違う点があるとはいえ、
「ヴィジョンを打ち出す」
「基本は顧客本位」
「スタッフに誇りをもってもらう」
「不正を行なわない」
といった経営革新の基本的な方法は、
今でも通用しよう。
(「不正を行なわない」のは、
当然ながら、しかし重要な「経営戦略」だ)

また、経済が厳しくなったとはいえ、今でも
「すぐできるだろうになあ」
というような改善ができていない、
ぬるま湯組織は、実際はたくさんある。
逆に前述のように、経済の悪化が
不正を呼びこみ、
誇りがもてなくなってしまった
組織もあるだろう。

そういった、日本各地の
「正直屋」や「安売り大魔王」にいる人に、
この映画は、今後も教科書であり続けると思う。

平成三一年三月二日
明瀬祐介
acsusk@gmail.com

 

(以下、細かい点)
■私は伊丹映画を
これまでほとんど見たことがなかったくせに
かなり偉そうなことを書いている。

下記書込の表現をそのまま使うと、
伊丹映画は、昭和末期~平成初期の
「日本社会あるある」だ。
https://rio2016.5ch.net/test/read.cgi/rmovie/1380610656/24
(アダルト広告注意)

これらの「あるある」の中には、
種々の「改革」などによって
なくなってしまった部分もあるし、
なくなってよかった部分もあるから、
映画としては古びて見えるところがある。
平成の日本は、
ゆっくりとではあるが、昭和的な物を
だいぶ消し去っていたのだ。

だから、この愉しさはそのままに、
平成末期の「日本社会あるある」
を描いた新作がぜひ観たいのだが、
それはかなわず、後継者が待たれる。

 

■いかにも金持ちっぽい津川雅彦と
庶民的な伊東四郎なら、
普通は配役を逆にする。
が、そんなステロタイプの逆を突くところに
伊丹の凄さがあろう。

 

■高橋長英と伊集院光の魚屋感は異常。

 

■期待を胸にエンドクレディッツに入っていく場面最高。

 

■安売り大魔王の旗かっけー!!

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