アカセニッキ(明瀬祐介日記)

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「マルサの女2」と「土地の不可侵性」。

投稿日:2019年5月12日 更新日:

■映画「マルサの女2」を
はじめて観た(DVD)ので、
以下にその内容の一部と感想を書く。

本作は昭和六十三年、
前作「マルサの女」の続篇として公開された。

監督は伊丹十三。
主演は「みやや」(「ナイツ」の塙が命名)こと、
われらが宮本信子である。

 

■バブル期の東京、
政治家・銀行・商社が
高層ビルディング建設のため、
ヤクザ・鬼沢(三國連太郎)を雇い、
土地買収を急ぐ。

鬼沢は
宗教法人「天の道教団」の管長でもあり、
これを利用して脱税をしているという疑いから、
宮本信子・津川雅彦ら、
マルサが調査を開始する-。

 

■前作は、脱税を目論む山崎努と、
それを摘発しようとする
宮本信子らマルサとの暗闘が
主要部だったのだが、
今回、マルサは脇役のようになっている。
脱税問題もメインではない。

実質的な主役は、
三國連太郎が演じる鬼沢だ。

これは、本当は
「地上げの男」
「宗教法人の男」
というタイトルに
すべき映画なのだ。

 

■鬼沢の部下たちは
「村田六」とかいう商社の
間接的な支持のもと、
マンション住人や食堂店主の
追い出しをかけるのだが、
これがえげつない。

まだ人の住むマンションに
深夜まで騒音を轟かせ、
大型犬を放し、
過失を装ってダンプカーを
食堂に激突させかける。

 

■その中で、
不破万作演じる
地上げ屋「チビ政」が
地上げに応じない
食堂の主人を恫喝する場面がある。

「お前らここ借りとるだけやろ。
それが借地借家法という悪法に守られとる。
地主がこの土地10億で売ったかて、
可哀想に地主の所には
2億しか入らへん。

残りの8億どこ行くんかい。
全部お前のとこやないけ!
8億っちゅうたらな、
地代と家賃月20万として、
三百三十三年分やど。
しかも世田谷に家を建て替えてもろうて、
それが無税や。

新聞やテレビは、
“三代続いた大衆食堂で、

地上げの犠牲になった”
とか言うけど、
何が犠牲か、
このクソ餓鬼ゃあ!

お前ら過去三代に渡って
この土地借りて商売して
儲けさせてもろてんのやろ。
お前、その恩忘れたか。
お前ら日本人の恥さらしやあああ!」

 

■もちろん恐喝じみた地上げは
誰が見ても悪としか言いようがないのだが、
しかしこの、チビ政の恫喝は、
部分的に正しい。

野口悠紀雄の
「戦後日本経済史」
に、次のような記述がある。

「戦後、借地権は
実質的に所有権と同じものになった」

「高度成長期、
借地料の実質的負担はほぼゼロとなり、
著しい地価上昇により、
巨額の地下値上がり益が
借地権者にもたらされた」

そしてその結果、
土地はまったく有効利用されないまま
足りなくなり、
足りないことが
さらに土地の資産化・地価上昇を加速させる。

それが昭和末年の
土地バブルの元凶だ。

そしてこの借地借家制度は
令和元年の現在も基本的には
変わっていない。

(平成初頭に一部制度改正がされたが、
旧来の借地借家には適用されなかった)

(また、
民間部門による
土地利用が進まないのとセットで、
公共部門による土地収用も
遅々として進まなかった)

 

■あるいは、ついにみややから
取り調べを受けることになった鬼沢が、
突然怒鳴りあげる場面。

「俺は国のために
地上げ屋をやってるんだよ。

東京が国際的な都市として
世界の金融センターになるためには、
世界中の企業を
東京に集めなきゃならないんだよ。
そのためにはオフィス面積が
絶対的に不足しているんだ。
その不足を埋めるために
高層ビルを建てるしかないだろう。
高層ビルはどこに建てる?
そんな土地はどこにある。
だから俺たちがやってるんだよ。
政府やお偉さんがたが自分の手を汚すか。
日本の改革のためには
誰かが汚い仕事を
引き受けなきゃならないんだよ。
俺たちがやらなきゃ
東京の地位なんか
すぐに香港に奪われてしまうんだ。
てめえら、それでいいのか。
日本がどうなってもいいのか!!!」

この直後、鬼沢は壁に頭を自らぶつけ、
顔を血だらけにして、
逃れようとする。

このときの三國の演技は、
「怪演」「熱演」
「狂演」とでも
呼ぶべきものだ。

 

■鬼沢は、
上記のようなあくどい
地上げの親玉であり、
風俗店で儲け、
宗教団体で多くの信者に嘘をつき、
高校生まで含めた愛人を囲い、
さらに脱税をしているという男だが、
前作の山崎努と同じく、
単純な悪役ではない。
(そこが伊丹映画の肝である)

老いを異様に恐れ、
築き上げた物が崩壊する悪夢に
毎晩うなされる。

さらに取調で、
「金は棺桶まで持っていけないよ」
と言う査察官(津川雅彦)に
こう言ってのける鬼沢。

「あんたたちは金のことは
何もわかっちゃいない。
金は生き物だ。
金は時間とともに育つんだ。
金は未来。
金は未来の命だ。
金とともにある時、
私は不老不死なんだ」

これは正直言って
どういう理屈か分からないのだが、
さきの、鬼沢が地上げを正当化する台詞も、
むろん、鬼沢の責任逃れも
含まれていようが、
ある種本気で信じていたのかもしれない。

 

■さて、周知のように
暴騰した地価は平成の初頭に暴落し、
日本経済を、その後十年以上痛めつけた。

そして、平成末期・令和初頭の日本は、
全く別のフェイズに突入することになる。

「空き家だらけになった街」

「災害対策のコストを何百万円と
背負わなければならない
危険地すら、返納はできない」

「九州と同じ面積にまで広がった
所有者不明土地」

「人口減少に備え、
インフラストラクチュア維持の
コストを下げるための、
政策的に無人化していく、
コンパクトシティ・
“政策空き家”のような縮小策」

「が、先祖から住み慣れた土地、
あるいは大金を出して所有した土地から
追い出されることに、
(当然ながら)反対する住民」

といった話題について
ニュースで見ない日はあるまい。
(後述のように、
一部は制度改正されつつある)

 

■これらはそれぞれ、
別の制度から発生した問題だが、
根本的には同じところに起因していよう。

「土地の不可侵性」と、
それによる
「利用価値のある土地の
(保有コストの安い、)
保有資産化」
(それがさらに
保有資産としての価値を高める)
だ。

ただただ危険なだけに
なってしまった土地でさえも、
公共団体に返すことすらできず、
公共団体が、多くの国民の利便のために
必要な土地であっても、
収容することは滅多にできず、
所有者不明土地でさえ、
災害時ですら容易に手を出せない。

一方で都市の一部では
(実質的に所有権となった借地も含めた)
土地が(地上げでもしなければ)
(さらに高騰が見込まれるため)
永久に手放されず、
その結果、地価は暴騰し、
道路や鉄道の整備も遅々として進まず、
家を持てない多くの国民が、
満員電車に二時間揺られて通勤した。

そして暴騰した地価が暴落し、
長年にわたる不況を招いた。

 

■「土地の不可侵性」は、
「マルサの女2」で描かれた、
バブル期の東京と
現在の主に地方部(都市部もだが)で、
それぞれ裏表の問題を引き起こし、
誰が考えても大多数の人を、
幸に巻き込んだ。

この制度は
さすがに近年になって
ようやく改革の緒についている。
(上記の、
所有者不明土地や空き家の問題は
制度としては対応されつつある)

個人的には今こそ、
十九世紀アメリカの思想家・
ヘンリーヂョーヂの思想・
「ヂョーヂズム」のような、
土地私有を認めながらも
その使用が皆の幸福につながるように
自動的に誘導するような
制度が求められる、
と思っているのだが、
まだまだ先のことになろう。

毎度ながら結論は特にないのだが、
「墾田永年私財法」さえなければ
地租改正一揆も
農地解放も
三里塚闘争も、
平成バブルも、そして地上げも
森友学園も
「所有者不明土地」
「空き家問題」もなかったのになあ、と、
映画とは全然関係のないことで、
本稿を締めておきたい。

令和元年五月十二日
明瀬祐介
acsusk@gmail.com

-TV, 所感, 映画

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