アカセニッキ(明瀬祐介日記)

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所感

将棋界に学ぶ、「地味で難解な分野」の人気の集め方。

投稿日:2019年10月7日 更新日:

■前の三回くらいで、

「現在の日本の”科研費”は、
“社会にとって重要な物を官が決め、
それに資金を配分する”、
という戦時統制経済の名残だし、
世界的にも学術研究は、
税金によって担われている公共事業だ」

「しかし、
何が必要とされるか分からない現代では、
こうした社会主義的な営みは効率が悪い」

「近年は宇宙開発でさえ
一部を民間企業が担うようになっている。
学術研究を国家プロジェクトとして
行う時代は、もう終わった。
(少なくとも
“公共事業でしかできない”
分野は格段に狭くなった)」

「ここでスポーツに思いをはせれば、
かつてはアマチュアリズムが幅を利かせていたが、
商業化・プロフェッショナル化によって
選手にも利益がもたらされ、
観客もそのプレイを楽しむことができるようになった。
学術研究もスポーツに習うべきだ」

ということを長々と書いた。



■「そうは言っても
みんなに分かりやすいスポーツなんかと違って、
うちの分野は分かりにくいから…」

と、尻込みしてしまう方がいるかもしれない。

ここで、完全に一致ではないものの、
参考になる業界がある。

将棋界だ。


■近年、将棋は人気である。

現時点でのAbemaTVの視聴者数ランキングを見てみると、
今週最多だった対局は、
「順位戦」の渡辺明対羽生善治戦で、九〇万人。
まあこれは黄金カードの大一番だから例外としても、
それほど注目度の高くない対局でも、
二〇万、三〇万といった人が観戦している。

https://ranking.abema.tv/

将棋人気復活の決定的なトリガーは
藤井聡太ブームだが、
そのちょっと数年前あたりから、
ブームの下地はできていた。
ウェブで中継されるようになったからだ。


■さて、この将棋中継、
もちろんサッカーや野球を観るように、
ゲイムとして将棋を観戦している人が
多いとは思うけれど、
そればかりではない。
近年増えている
「観る将棋フアン」
=「観る将」の中には、
「ルールが全く分からない」
という人も少なくないという。

(ちなみにさらに進んで
「描く将棋フアン」
=「描く将」というのもできた)


■そんな
「ルールを知らない観る将」たちが
愉しんでいるのは、主に棋士の、
ルックス、表情、逸話といったところらしい。
おやつに何を食べるか、とか、
着物の柄とか。
あるいは解説の棋士のお喋りとか、
対局している棋士の奇人逸話とか。

つまりキヤラクターを売っているのだ。

もちろん真剣勝負だから恰好良い、
というのもあるけれど、
キヤラクターを面白く伝えれば、
「内容が何も分からなくても」
楽しくなるわけである。


■人文科学だって、
自然科学だって、
ネタになる話や、
面白いキヤラクターはいっぱいいるだろう。

幸い、学問は将棋よりも遥かに
下地が広い。

みんな義務教育で授業を受けている。
将棋とは違って、
「ルールが分からなければ何も分からない」
ということもない。

「人気」だって負けていない。
地上波の民放TVで
将棋の”内容”が特集されることは皆無だが、
宇宙や生物や歴史や社会が、
ある程度まじめに扱われることは少なくない。

将棋の本は、
本屋の隅っこの小さな棚にひっそり置いてあって、
ベストセラーになるなんてことはまずない。
ちゃんとした学問系の新書や単行本は
どこの書店でも将棋本の何倍もあり、
そのうち年に何作かベストセラーになる。

一〇〇人くらいしか棋士がいない将棋界に対して、
研究者は何万人といる。
毎年のようにスターが現れるはずだ。

「我々の業界は地味だから
一般大衆からは必要性を理解してもらえない」
と嘆く研究者たちは、
自分たちの魅力に気づくべきだ。


■これにかなり近づいたのが小保方晴子で、
実際「割烹着のリケジョ」として売り出していたし、
STAP細胞疑惑発覚後は
巷のおっちゃんおばちゃんたちまでもが
「STAP細胞」の有無について論じた。
(余談だが二〇一四年の流行語大賞は
絶対に 「STAP細胞」であるべきだったと思う)

疑惑発覚後の顛末はともかく、
当初の「売り出し」は
なかなか見事なものだったと思う。
(「やり方が下手」という声もあったけれど、
大衆はあれくらい分かりやすいのがいいのだ)
もしそのまま成功していれば、
日本の学者は一気に
「スター化」の道のりをたどっただろう。

ま、そうならなくてよかった、とも言える。

令和元年一〇月七日
アカセ(明瀬祐介)
acsusk@gmail.com
https://twitter.com/acsusk/

-所感

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