⼀万円札は天正大判のような、贈答専用通貨にしてしまってはどうか。(再録)
- 新札の肖像画が
渋沢栄⼀、津田梅子、北里柴三郎に決まった。
個人的にこの人選には大賛成で、
特にかつて
「八月の博物館」や
「栄光なき天才たち」を
愛読していた私としては
渋沢と北里がうれしい。
- 一方で、
「これからはキャッシュレスの時代だから、
高額紙幣発行などやめては?」
という意見もちらほら耳にする。
確かに私もできるだけ
キャッシュレス化、ペイパーレス化が
早く進んでほしいとは思っているが、
保守派としては、やはり新札で
人心を⼀新するメリットを取りたい。
これだけ情報や娯楽が発達し、
人々が多様化した、二十一世紀の今日ですら、
元号が発表され、変更されることに、
あれだけ老若男女が心を動かされたではないか。
祝祭の力、不合理な物の力というのは、
やはり莫迦にならないのである。
- しかし、
「政府がキャッシュレス化を推進すべきだ」
という意見には⼀理あり、
便益を考えるなら確かにその通りだ。
そこで私は次のように提案したい。
「⼀万円札は贈答専用通貨にしちゃおうよ」
スーパーマーケットや
コンヴィニエンスストアーではまず使われない、
祝儀や香典専用の紙幣にしてしまうのだ。
これなら自動販売機やATMの対応も必要ない。
- 実際に、かつて正貨が贈答品だった時代がある。
天正大判や慶⻑大判は⻑軸20cmほどもある、
まさに「黄金」と呼ぶべき代物で、
特に天正大判はかつて世界史上最大の金貨とされていた。
しかし、織豊時代や江戸時代の人々が
実際にこの大判を用いて着物か米なんかを
買っていたわけではない。
彼らは大判を贈り物にしていたのだ。
(賄賂ということではなく、
祝い事などに渡したのだろう)
- 現在の⼀万円札は原価数十円ほどで作られているという。
それを考えると感心するほど美麗だが、
思い切って贈答品にするなら、
さらに、いくらでも豪華にできる。
各地の伝統職人の手を借りて
細かい装飾を施すこともできるだろう。
あるいは季節ごとに色を替えたり、
地域ごとに模様を替えたりするのも
面白いかもしれない。
うん、なんだかとっても楽しそうではないか。
- これからおそらく
キャッシュレス、ペイパーレスの時代が来るのは間違いない。
例えば、本に関しても、電子書籍化が進む。
しかし、紙の本はおそらく、
完全にはなくならないと、私は思う。
紙の本は「グッズ」になっていくのだ。
紙の本は、「情報」から「物」に戻るわけである。
- 紙幣も、令和年間の早いうちに
その「通貨」としての役割を終えるかもしれない。
このままいけば何となくゆっくり価値を失っていき、
やがてフェイドアウトしていき、
下手すると邪魔者扱いされる。
私たちが⼀万円札を見たり手にした時の「あの気持ち」や、
日本に培われてきた「紙幣文化」のような物も
消えていくはずだ。
これを私は惜しく思うし、
おそらく皆にも少しは同意してもらえるのではあるまいか。
であればむしろ、
我々は⼀万円札の
「グッズ」としての価値を高め、
ニッチを確保し、積極的に残すことを
目指していくべきではないだろうか。
(令和元年六月の記事を再録。現在ではちょっと考え方が変わっている)
2024年07月12日公開
2024年07月12日更新