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[再録]「普通の大学」の「体育会系」にいた人たち。

  • 世の中で「体育会系」という言葉は、
    決して良くない意味で使われる。

    要は「単純莫迦」であろう。
    「気合」や「根性」で何でもできると信じており、
    酒、もっとひどいのになると拳で解決する、
    時代遅れのマッチョ主義者-。

    そんな印象のついた言葉だ。

  • あるいは、逆に、
    良い意味でこの言葉が使われることもある。
    「爽やか」とか「熱い」とか。

    「いだてん」の「天狗倶楽部」のような連中である。
    あるいはもっとスマートに、
    加山雄三のような感じかもしれない。

  • だが、いずれも(私からみると、)違うのだ、
    もしかしたら世の中には
    そういう「体育会系」がかつてはいたか、
    今でもいるのかもしれない。

    しかし、俺の知ってる、
    「普通の大学」で、
    「体育会系」
    (および、「体育会系文化部」)
    にいた人たちは、
    ほぼすべて、
    もっと理屈っぽく、
    面倒くさく、
    うじうじと悩み、
    孤独にさいなまれ、
    鬱々と日々を送るようなやつらだった。

  • 私自身は、大学の時、ほんの一瞬だが、
    「体育会系」にいた時期があるという、程度だ。

    しかし本当に一瞬で逃げだしたから、
    もし私を知っている人がこの記事を読んだら、
    「おまえが体育会を語るな」
    と言うかもしれない。

    あるいは、
    当時住んでいた寮にも体育会の人が多かったし、
    さらに「体育会系文化部」のことだって知っているけれど、
    別にすべてを知っているわけではない。

    いずれにしても、
    私の時代の、
    私の大学の、
    私の周囲にいた人たちについてしか、
    私は語れない。

    以上を前提に、
    以下では、「普通の大学」で、
    「新歓の際に勧誘されて入部し、
    在学中は一生懸命練習するけれど、
    卒業したらその競技を(たまにしか)やらない」
    というような、
    「普通の体育会系」
    「普通の体育会系文化部」
    を念頭に置いている。

    また、ここでいう「体育会系文化部」というのは、
    大集団で、わりと伝統もある文化的活動を、
    毎日のように練習する団体で、
    要するに楽団とか、劇団とかを
    想像していただければ結構だ。

  • さて、私が大学生だった平成十年代後半期、
    「2ch」の「大学生活板」や「VIP」が最盛期だった。

    そこに存在していたのは、
    「俺たち=ぼっち」vs.「やつら=リア充」
    の対決構造だ。
    もう少し後の言葉で言うと、
    「俺たち=陰キャ」vs.「やつら=陽キャ」=「ウェイ系」
    になろう。

    私はもちろん「陰キャ」だから、
    「やつら=リア充」のすべてが妬ましかった。

    もちろん、私が当時「リア充」
    だと思っていた人々にも、
    いろいろ悩みがあったんだろうな、
    というのが今では分かるのだが、
    当時の私は、
    「どうせ”やつら=リア充”は
    よろしくやってやがんだ、けっ」
    と思っていたし、そんな「リア充」を、
    匿名の「ぼっち」たちが腐すのを読んで
    楽しんでいた。

  • そんななかで、
    いつも気になっていたことがある。

    どうも、「俺たち=ぼっち」から見ると、
    「体育会系」も「体育会系文化部」も、
    「やつら=リア充」の側に属する人々だと
    思われているようなのだ。

    それを視て、
    私はいつも画面にむなしく叫ぶ。

    -違うんだよ!
    「体育会系」や「体育会系文化部」は、
    完全におまえら、
    「俺たち=ぼっち」「陰キャ」の側なんだよ!

  • 昨日の記事では、
    私の高校時代である平成一〇年代前半期、
    「オタク」は蔑称で、隠れた存在だった、と書いた。
    http://acsusk.com/20190624-1/

    が、平成一〇年代後半の大学では、
    高校と全く様相が違っている。

    すでに「オタク」は、
    それなりの勢力になっていた。
    「ハルヒ」とか「らきすた」とか
    「ゆっくりしていってね」とか
    「そんな○○で大丈夫か」とか、
    毎日大学のどこかで見たし、
    「踊ってみた」とかをやる
    サークルだってできつつあった。

    そして何より、
    彼らはネットに仲間がいた。
    大学でも小さくない上、
    ネットでは一大勢力である。

    そのネットで、彼らは言う、
    「俺たちぼっちは…」。

    いや、ちょっとまて、
    おまえら多数派やないか!

  • まず、私の知っている
    「体育会系」や「体育会系文化部」の人たちは、
    (平均すると、)総じて友達が少なかった。

    まず、そのクラブ以外の友人、
    つまりクラスの友人というのが、
    少なくなる場合というのがある。
    何せ必然的にクラブでの時間が多くなり、
    人間関係もそこが主になるからだ。

    しかし、ではクラブ内の人と仲が良いか、
    と言うと、決してそうでもない。
    ずっと一緒にいるわけだから、
    むしろ深刻なだってありうるし、
    それが普通だろう。

    だから、
    「笑って話せる友達がいない(ゼロ)」
    ということさえ、
    「超レア」ではなかったのではないか。
    (私がそうだ)

  • そして、多くは鬱々としていた。
    それなのに無理に笑っているところがある。

    ただ、これは説明しても伝わらないだろうな、と思う。

    私はその後、大学を卒業、会社に入り
    いろいろいやなこともあったが、
    それでもあの、アノミイ的というか、
    モラトリアム的というか、
    誰もが不安を感じている状態、
    というのを経験したことがない。

    だいたい「普通の大学」で、
    「体育会系」とか「体育会系文化部」に来た人たちは、
    ほぼみんな、「たまたま」入っただけである。
    初心者だった人だっている。
    生涯その競技・分野で生活するというのはごくごく少数派だ。
    みんな、長期的には、
    もっと別の目標があって大学に入った人たちである。

    それなのに毎日夜まで練習しているのだ。

    周りでは、本当のリア充が、
    ダブルスクールをしだしている。
    卒業旅行に行っている。
    インターンシップをはじめている。
    私の周りにはいなかったけど、
    スタートアップをする人だっているだろう。

    おそらく、心のどこかでは
    思っていたのではないか。

    「今、これをしていてよいのか」-。

    ついでに言うと、私が会った
    体育会系も体育会系文化部も、
    どれもこれも、妙に理屈っぽかった。
    「理屈じゃなくて情熱だ」
    みたいなことを必ず言うのだ、理屈で。

    一番近いのはあれである。
    「四畳半神話大系」の主人公だ。

  • 上述した通り、
    以上は、一面的である。
    私が昔見た、というだけだ。
    また、私の説明が下手で、
    よく分からなかったと思う。

    しかし、全国の「普通の大学」で、
    「体育会系」
    「体育会系文化部」
    だった人の何割かには、
    おそらく何パーセント分かを、
    同意してもらえるのではないか。

    「オタクでぼっち」
    「陰キャオタク」
    みたいなのは
    何となくフォーマットになっているし、
    彼ら自身の中にも、
    そのキヤラを演じている人もいよう。

    一方、冒頭にも書いた通り、
    「体育会系」で連想されるのは、
    「単純」とか「脳みそ筋肉」とか、
    あるいは「爽やか」とか「熱い」、
    せいぜい「ハードな練習」とかで、
    「孤独」とか「憂鬱」なんてないかのような扱いだ。

    文化部も、
    演劇なら「演劇青年」とか、
    クラシック音楽なら「高尚な趣味」とか、
    揶揄的なステレオタイプがある。

    少なくともみんな、
    「友達が多い」
    「充実している」
    と思われている。

    「大学体育会系の陰キャ性」
    「大学文化部はぼっち」
    なんて、ネタになっているのすらほぼ視ない。

    「七帝柔道記」という小説は、
    「普通の大学の、体育会系のぼっち具合」
    を描いた、数少ない作品だ。
    あそこまで行くと「普通」じゃなくなってしまうけど、
    ただ、あそこまで行かなくても、
    ああいう側面がちょっとはある、
    という場合は多いのではないか。
    https://www.kadokawa.co.jp/product/201112000149/

  • というわけで、
    実は可視化されていなかったかもしれないけれど、
    あなたのとなりにいた(いる)、
    「普通の大学」の
    「体育会系」や
    「体育会系文化部」の人たちは、
    もしかすると、
    あなたが思っている以上に、
    理屈っぽくて、
    面倒くさくて、
    友達が少なく、孤独で、
    日々鬱々としてたかもしれないんだよ、
    ということを、
    心の片隅に留めておいていただければ幸いである。

    令和元年六月二十五日の記事を再録
2025年02月16日公開
2025年02月16日更新
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