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《森本毅郎スタンバイ》と《荒川強啓デイキャッチ》の思い出

  • 私にはラジオ体験というものがない。

    鉱石ラジオから流れてくる早慶戦に興奮した思い出もなければ、FENが届けるロックンロールに驚愕したなんて記憶もない。
    はがき職人とパーソナリティの軽妙なトークも、アイドルのTVとは違う一面も、全く知らない。

    私にあるラジオ体験。
    それは《森本毅郎スタンバイ》と(、《日本全国8時です》と)、《荒川強啓デイキャッチ》だけなのだ。


  • 私の父は1990年代、文化放送をよく聞いていて、私は
    「文化放送きいちゃった」
    という《QRの歌》がかわいらしくて好きだったのだが、
    (今調べたら野坂昭如+いずみたくなんですね)
    しかし文化放送の番組自体のことは、つまり父が聞いていた
    《梶原しげるの本気でDONDON》
    《吉田照美のやる気MANMAN!》
    《小倉智昭の夕やけアタックル》

    のことは、毛嫌いしていた。
    なんか全体に漂う下品な感じがしたし、母も、妹もその感想に同意していた。
    「ぜんぜん文化的じゃない」
    と。
    (別にそんなに下品なわけでもなかったのに、ラジオを聞きなれないので騒がしく感じたのかもしれない)

    1990年代末、それらの番組が終わったからだろうか、私たちのディスライクが聞いたからだろうか、父はTBSラジオの《森本毅郎スタンバイ》を聞くようになる。
    私は母の車で登校し、帰宅する日があったので、《森本毅郎スタンバイ》に加え、《荒川強啓デイキャッチ》も聞きはじめた。


  • リスナーには常識だが知らない人は全く知らないだろう、朝に放送している《森本毅郎スタンバイ》とは、“聴く朝刊”というスタンスで、解説員によるやや硬派なニュース解説を中心にしながら、スポーツや街の話題が混ざる、まあTVでいうと《ひるおび!》みたいな感じだ。
    《ひるおび》もそうだが、中高生や普通に働く人が、社会のことをざっと知り、考えるのには適した番組と言えよう。
    インテリを自認する(別にインテリではないのだが、)文化的家庭の我が家でも、TBSラジオは文化放送よりはるかに受けが良かった。
    森本毅郎も相方のジャーナリストも、もちろん知性派だが、それでいておおざっぱでテキトーな話もできる人たちなので、聞いていて飽きない。
    (いや、当たり前のこと言うようだけどさ、森本毅郎ってほんと、ほんとその知性と庶民性のバランスが凄いと思うよ。考えてみれば恵俊彰もそうだよな)


  • その《森本毅郎スタンバイ》にくっついているのが《日本全国8時です》で、森本が各界から曜日ごとにゲストを招いて、森本が専門的な話を聞くという番組。
    私が聞いていた頃は、
    月 : 永谷脩(野球ライター)
    火 : 荒川洋治(詩人)
    水 : 森田正光(気象予報士)
    木 : 不確定
    金 : 小沢遼子(評論家)

    という、この番組がなければ、じっくり話を聞く機会は一生訪れないであろう、絶妙な人選だ。
    不確定だった木曜日にやがて当時東大教授だった月尾嘉男が来て、これで固定かと思われたのだが、月尾は数か月もしないうちに
    「カヌーで冒険の旅に出る」
    という聞いたことのない理由でまた不在になって(実際冒険に行っている)、結局私が聞いている間は安定しなかった。

    私たち母子は荒川洋治の、日本語表現・表記の“機微”としかいいようがない細かい指摘が面白くて楽しみだった。
    たとえば
    「“札幌”のルビは実際には“さっぽろ”ではなく、“さつぽろ”とつけられている」
    とか、
    「“長篇”“短編”と書かれるよりも、“長編”“短篇”と書かれることの方が多い」
    とか、
    「“不可解”“不思議”という言葉はあるが、“可解”“思議”という言葉はない(昔はあった)」
    とか―。
    そんなこと知ってどうなるんだ。

  • 夕方の《荒川強啓デイキャッチ》も《スタンバイ》に近い感じの夕方のラジオ。その日のニュースを10位からカウントダウンしながら質問・解説していくというものなのだが、解説員が、
    宮台真司
    福島瑞穂
    近藤勝重
    堀井憲一郎
    山藤章司

    というメンバー。結構濃厚にリベラル・反自民の人選でありながら、、やはりスポーツや娯楽のような楽しい話題も織り交ぜられる。完全な中年向け・生活保守的な番組でありながら、しかし当時気鋭の社会学者であった宮台真司がいて、しかしそれでいて話としては常識的なラインでまとめられる、これまた非常に絶妙なラインをついた番組だった。

    トランペットのテーマ曲があって私は大好きだったのだが、《YouTube》にも音源がなく、今は聴けない。

  • 2000年代の半ば、私は父や母と離れて暮らすようになり、住居も関西に移ったことで、これらの番組を全く聞かなくなった。

    つまりそれくらいの好き度合いでしかないのだが、どうだろう、これらの番組を聞いていた時間というのは数十時間にもなるから、しぜん、すごい愛着になってしまい、思い出すとやはり長くなる。

    《荒川強啓デイキャッチ》の方は残念ながら終了してしまったが、 《森本毅郎スタンバイ》の方はまだ続いていて、すっかり高齢となった森本毅郎が気を吐いている。

    そういえば、二番組とも結構濃厚にリベラルであること以外に、結構濃厚に阪神タイガース贔屓なところがある。

    私が心情的にうっすら阪神贔屓になったのは、これらの影響かもしれない。
2024年05月02日公開
2024年05月02日更新
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